高校の時の球技大会で、ドッジボールに無理やり狩り出されたときのことである。
やる気はなかったが、その場から逃げ出すことも出来ない臆病だった俺は、学校の行事に一生徒として受動的に参加していた。
大抵、運動のできる奴らはサッカーとかソフトボールやバスケに参加していたので、ドッジボールのメンバーはたかが知れていた。
その予想通り、始まる10分前になると運動系のイベントでは活躍の見込みのない奴らが、ぞろぞろ集まってきた。
俺は集まった弱者を見ると、とりあえず安心した。とっとと終わりにして早く帰りたかったからだ。
いざ試合が始まってみると、一回戦目は快勝した。
会話もしたことのない連中で、およそチームワークというものは持ち合わせていなかったが、それでも他の出場者よりも運動面で強かったようで、投げた球はことごとく相手に当たった。
俺も小学校の頃にドッジボール大会に何度も出ていたので、それなりに活躍した。
一汗かき、結果に満足したのか、俺は次の対戦が少し楽しみになった。
そして次の試合。
相手は、全員が女性で編成されているチームだった。
ここにきて、ドッジボールの認識の薄さが形になって現れ、チーム全体に暗い影を落としたように見えた。
俺はなんだか情けなくなり、曲がった白線で引かれた狭いコートの上で、涙が出そうになった。
相手の女達は、運動音痴を演出しており、二人・三人単位でコートの隅に固まっていた。
その中の、運動部っぽいのがコートの真ん中に進み出てきた。
審判がボールを空中に投げると、なんなく俺のチームメイトはボールをキャッチした。
彼は、女相手に本気で投げるのは紳士ではないと思ったのだろうか、前回とはうってかわって、弱弱しく相手のコートに投げた。
そのボールは弱い小動物を装った女にあっさりキャッチされた。というのも、その女は色黒で俺と大して変わらぬ体格の持ち主であった。
コートの外にいる女の友人達に、「○○がんばれー!」と応援され、ボールを持った女は砲丸投げのようにボールを投げた。
俺はあっさりキャッチされると思って飛んでいった先を見ると、考えられないことが起こった。
受け手の男は、一度持ったボールをワザと放したのである。
「きゃあ☆やったぁ!」
固まった女が歓声を上げると、場外の女もそれに合わせて歓声を上げた。
男は無表情な顔をして、外野へと向かった。変な優しさを見せた男の後姿は、家庭を持ちながら帰る場所がない、情けない中年のおっさんのようだった。
こうして同じような輩が続出し、女の悲鳴にも似た歓声が場内で沸いていた。
コート内外は異様な盛り上がりを見せており、スポーツというより、おもしろい見世物のようであった。
それに圧されたのか意思の弱い、軟弱な男は散っていった。
試合開始から十分程経過したが、その時にはもう自分のコートには俺を含めて3人しかいなかった。
考えてみれば、トーナメント方式の二回戦目だから、相手は前回の試合に勝っていることになる。
おそらく、相手はわざと負けたのだろう。このままでは俺らもその結果を辿ることになる。
ふと俺の目の前に、落下しないのが不思議なほど遅いボールが飛んできた。
俺はそれを反射的に掴んだ。
あぁ、俺が投げるのか、と思いだし、ゆっくり前方に進み出た。
目の前には、何の屈託もないような顔つきの女、笑いながらそれを見てるクラスメイトの男が見えた。
一体俺らは何のためにこうしてコートの上で立っているんだ。
俺は残った奴らに言いたかった。
「所詮、大人しい奴の優しさなんて、ただ意思が弱いだけで、自分が思ってるほどいいもんじゃない。
周りの見世物になっても気がつかないなんて、お前ら、どこまでお人好しなんだよ…。」
俺はボールを持った右腕の緩めた筋力を、最大限に引き伸ばした。
「茶番は終わりだ。」
俺のボールは、女達が今までに見た事の無いような速度で飛んでいき、その破壊力は女三人を道連れにした。
場内は静まり返った。皆は、理解できないことが起こった時に見せる、強ばった表情を浮かべていた。
近くにいた女は、こぼれたボールを拾い上げた。そして周りの女に
「がんばれー」
と励まされ、俺に向かって投げた。その時俺は、完全に悪者だった。
俺はそれをなんなくキャッチすると、思いっきり投げたが、ボールは当たらずに外野へ飛んでいった。
女は得たいの知れない者を見るような目つきで俺を見ていた。
外野で受け取った男は一瞬とまどい、ボールを手で弄んだ。
気のせいだったかもしれないが、その時、一秒が一分ぐらいに感じた。
彼はやがて、自身の人生に反旗を翻すかのように、全力で投げた。
こうして女は駆逐され、茶番は終わった。試合を見ていた者は興ざめして、ほとんどがいなくなっていた。
結局、その次の試合であっさり負けたが、良質なハリウッド映画を観た後のように、晴れた気分であった。
しかし登場人物が浮かばれる様なハッピーエンドでもなく、変化したように見えたチームメイトも翌日には何事も無かったように、黙々と授業を受けていた。
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